LOGIN日が決まってから三日が経った。
残り十五日。 その間に、いくつかのことが動いた。 まず、レインから連絡が来た。エリナへ
師匠の発言骨子を、アルバ殿下に送った。殿下から返事が来た。「発言の形式は整った。師匠の発言は認められる」と。 俺の同行についても、確認が取れた。学院の記録担当として、師匠に同行する形で謁見の間に入ることができる。 『あなたがいてくれれば、少し落ち着けると思う』という言葉を受け取った。 俺も、同じだ。 お前がそこにいることで、俺も落ち着ける気がする。 残り十五日。師匠と一緒に準備を続けている。 ――レイン――エリナは『俺も、同じだ』という一行を読んで、少しだけ止まった。
同じだ、と書いた。 『少し落ち着けると思う』という言葉が、同じ形で返ってきた。 整理しようとしたが、今日はすぐに諦めた。 整理しなくていい。 受け取った。それで十分だ。次に、師匠から直接手紙が届いた。
これは、初めてのことだった。 師匠とは、レインを通じて間接的にやり取りをしていた。直接手紙が来たのは、この一年で初めてだ。 封を開けると、丁寧な字で二枚書かれていた。アッシュフォード商会 エリナ殿へ
初めて直接書く。レインの師匠、ヴォルフ・グラーセンという。 なぜ今まで直接書かなかったか。お前のことは、レインの手紙と、送られてきたデータから十分に知っていた。直接書く必要がなかった。 今日書くのは、十五日後のことがあるからだ。 当日、俺は三分間発言する。内容は、学院での一年間の成果だ。レインと一緒に準備している。三分で一年分を伝えるのは難しいが、やれる。 一つだけ、お前に確認したいことがある。 報告書の第一部に、おばあさんの孫の話が入っている。レインから聞いた。その話を、当日の発言の冒頭に使っていいか。 俺の発言も、数字の前に人の話から始めたい。同じ話から入ることで、報告書と発言が繋がる。聞く人間に、同じ印象が重なる。 確認が取れれば、発言の準備を最終段階に入れる。 ――ヴォルフ・グラーセン――二枚目があった。
それから、一つだけ個人的なことを書く。
レインは、俺の弟子だ。十年近く一緒にいる。 あの子が、誰かのことをこれだけ考えているのを見たのは、初めてだ。 あの子は、才能がある。でも、才能があることと、誰かのことを考えることは、別のことだ。 お前との手紙のやり取りが始まってから、あの子が変わった。少しずつ、でも確実に。 それを、伝えておきたかった。 余計なことかもしれない。でも、師匠として、知っておいてほしかった。 ――ヴォルフ・グラーセン――エリナは二枚目を、三度読んだ。
レインは、誰かのことをこれだけ考えているのを見たのは、初めてだ。 才能があることと、誰かのことを考えることは、別のことだ。 師匠が、それをエリナに伝えた。 エリナは少しだけ、目を閉じた。 師匠が言った。 一年近く、レインの師匠として見てきた人間が、伝えておきたかったと書いた。 余計なことかもしれない、と書きながら、それでも書いた。 なぜ書いたのか、エリナにはわかる気がした。 師匠も、見届けようとしている人の一人だ。すぐに返事を書いた。
ヴォルフ・グラーセン先生へ 初めて直接お手紙をいただき、ありがとうございます。 一枚目のご質問について。おばあさんの孫の話を、発言の冒頭に使っていただいて構いません。報告書と発言が同じ話から始まることで、聞く人の印象が繋がるというお考え、正しいと思います。ぜひ使ってください。 二枚目について。 受け取りました。 余計なことではありません。知ることができて、よかったです。 『才能があることと、誰かのことを考えることは、別のことだ』という言葉を、しばらく考えました。正確な言葉だと思います。 先生が十五日後にそこにいてくださることを、心強く思っています。 ――エリナ・アッシュフォード――返事を書き終えて、ゴードンを呼んだ。
「師匠から直接手紙が来た。発言の冒頭に、報告書と同じ話を使うという確認だった」 「それは、良い構成です。報告書の冒頭と発言の冒頭が同じ話から始まれば、聞く側に一貫した印象を与えられます」 「そう思います。それと、師匠の発言内容と報告書の流れが、完全に連動しているか確認したい。レインに最終確認をお願いします」 「手紙を書きますか?」 「はい。今日中に」マリオに、師匠から手紙が来たことを話した。
「師匠って、レインの師匠?」 「そうです」 「直接来たのか。珍しいな」 「初めてです」 「何が書いてあった」 「当日の発言の確認と、それから——」エリナは少し間を置いた。
「個人的なことが、一つ」
「個人的なこと?」 「レインのことを」 「そうか。で、どうだった」 「受け取った」 「それだけか?」 「それだけです」 マリオが少し笑った。 「前のお前なら、全部分析してたと思うけど」 「今日は分析しませんでした」 「そうか、それでいいと思う」ルナに話すと、静かに聞いていた。
「師匠が、直接書いてきた」 「うん」 「なぜ書いたと思う?」 ルナが少しだけ考えた。 「見届けたいから」 「見届けたい?」 「十五日後に、何が起きるかを、見届けたいから」ルナが静かに言った。「それだけじゃないかもしれないけど、それが一番大きいと思う」 エリナは、ルナの答えを受け取った。 見届けたいから、書いた。 師匠も、見届けようとしている人だ。 レインが「一年後を見届けたい」と書いた。ベルダンが「一年後を待っている」と書いた。アルバ殿下が「楽しみにしている」と言った。フィオナがそこにいる。マグダが、シェナが、ジルカが、グレンが、ハンスが、ルシェムにいる。 見届けようとしている人たちが、こんなにいる。その夜、レインへの手紙を書いた。
レインへ 師匠から直接手紙が来た。 発言の冒頭に、報告書と同じ話を使う確認だった。許可した。良い構成だと思う。 それから、二枚目に個人的なことが書いてあった。内容は、今は言わない。でも、受け取った。 一つ、先生に伝えてほしいことがある。 『十五日後にそこにいてくださることを、心強く思っています』と手紙に書いた。でも、もう一つ伝えたいことがある。直接お会いした時に伝えます。 あなたが謁見の間にいることが決まった。それを、今日フィオナに伝えた。フィオナが「よかった」と言っていた。 私も、よかったと思っている。 残り十五日。 ――エリナ――フィオナへも、その日の夜に手紙を書いた。
フィオナへ レインが謁見の間に入ることが決まった。師匠に同行する形で。 それと、師匠から直接手紙が来た。発言の確認と、個人的な話が一つ。 個人的な話の内容は、今は書かない。でも、受け取った。 当日、謁見の間に入る前に十分間ほしいと伝えた。確認できましたか。 残り十五日。フィオナ、体に気をつけてほしい。 一つだけ言う。フィオナが王都にいてくれたこの一年は、フィオナがいなければできなかった一年だった。それを、今言っておきたかった。 ――エリナ――翌朝、フィオナから返事が来た。
エリナへ
謁見の間に入る前の十分、確保した。殿下に確認してもらった。 『フィオナがいなければできなかった一年だった』という言葉を受け取った。 私も同じことを思っている。あなたがいなければ、私はここにいなかった。ここに来る理由がなかった。 残り十五日。一緒に越えましょう。 追伸。師匠からの個人的な話、気になるけど聞かない。でも、あなたの顔が目に浮かぶ。きっと、いい顔をしてると思う。 ――フィオナ――エリナはフィオナの追伸を読んで、少しだけ口の端が動いた。
きっと、いい顔をしてると思う。 確認する方法が、今はない。 でも、悪い顔ではないと思う。その日の夕方、ゴードンが帳簿を閉じながら言った。
「エリナさん」 「何ですか?」 「一つ、言ってもいいですか」 「どうぞ」 「この一年、ご一緒できて、良かったと思っています」 エリナは少しだけ止まった。 ゴードンが、こういうことを言うのは珍しかった。 「急に、どうしたんですか?」 「日が決まったから、言いたくなりました。当日の前に、言っておきたかった」 「ゴードンさん」 「はい」 「私も、同じです。ゴードンさんがいなければ、数字は揃わなかった。報告書は書けなかった。それは、ずっと思っています」 「ありがとうございます」 「こちらこそ」 しばらく、二人で黙っていた。 帳簿が机の上にある。一年分の数字が入っている。 その数字は、ゴードンが積み上げてくれたものだ。夜、エリナは机に向かった。
十五日後に持っていくものを、頭の中でもう一度確認した。 最終報告書。学院の確認書。薬屋の第三者データ。ベルダンの記録書。王都のデータ。師匠の発言。 全部、揃っている。 揃えてくれた人たちがいる。 一人では、揃えられなかった。 エリナはペンを取って、小さなメモを書いた。 『一年後に感謝を届ける人たちのリスト』 ゴードン。マリオ。ルナ。セレーナ。フィオナ。レイン。師匠。アルバ殿下。ベルダン。マグダ。シェナ。ジルカ。グレン。ハンス。ベルト。 書いていくうちに、リストが長くなった。 一人が一つの場所で動いて、それが積み重なって、今日がある。 ランプの火が揺れた。 十五日後。 父が夢見た場所へ、その続きを持って行く。 一人ではない。 この人たちと一緒に。 エリナ・アッシュフォード、八歳。 今夜、感謝のリストを書いた。 長くなった。 それが今夜、一番大事なことだった。フィオナがルシェムに来たのは、謁見から二週間後のことだった。 予告なしだった。 朝、市場から戻ったマリオが、息を切らして事務室に飛び込んできた。 「フィオナさんが来た」「どこに?」「市場の入り口。馬車で来てる。荷物が多い」「荷物が多い?」「トランクが二つある」 エリナは少しだけ止まった。 「泊まりではなく、しばらくいるつもりですか」「そういうことじゃないか? 迎えに行くか?」「行きます」 市場の入り口に着くと、フィオナが馬車の横に立っていた。 久しぶりに、ルシェムで見るフィオナだった。 王都で会った時とは少し違って見えた。服装は変わらないが、顔が少し違う。 疲れている、と手紙に書いていた。 確かに、少し疲れた顔をしていた。 でも、エリナを見た瞬間、目が変わった。 「来た」「来ましたね、予告なしで」「予告したら、準備されすぎると思って。あなたのことだから、部屋を完璧に整えて、食事まで用意して待っていそうだから」「そうしようとしていました」「でしょう。だから、言わなかった」「荷物が多いですね」「しばらくいようと思って」 フィオナが少しだけ声を落とした。「王都からの仕事は、手紙でできる部分も多い。しばらくルシェムで動きながら、こちらの空気も吸いたかった」「どのくらい?」「一週間か、二週間か。決めていない」「決めなくていいです。いたいだけいてください」 マリオが荷物を運んでくれた。 フィオナが見ると、少し驚いた顔をした。 「マリオ、大きくなった?」「なってないと思うけど、フィオナさんが久しぶりに会うから大きく見えるだけじゃないか?」「そうかもしれない。でも、なんか違う。顔が違う」「どう違う?」「前より、落ち着いた顔をしてる」「そうかな」
翌日から、エリナは動き始めた。 といっても、急いでいるわけではなかった。 落ち着いて、一つずつ。 謁見の翌日以降に何をするかは、帰り道の馬車の中でゴードンと話し合っていた。 優先順位は決まっていた。 一つ目、商会の代表変更の正式書類を処理する。二つ目、各町の現場責任者に謁見の結果を報告する。三つ目、フィオナと連携して規制案の継続審議への対応を続ける。四つ目、学院の衛生教育の検討に、商会として協力できることを提示する。 どれも、急ぎではない。 でも、止まってもいない。 まず、商会の代表変更の書類が届いた。 アルバ殿下が約束した通り、一週間以内に書状が来た。 正式な書類に、エリナ・アッシュフォードの名前が入っていた。 アッシュフォード商会の代表者、エリナ・アッシュフォード。 ゴードンがその書類を机の上に置いた。 「これで、正式になりました」「そうですね」「どういう気持ちですか?」 エリナは少しだけ考えた。 「思っていたより、静かな気持ちです」「静か、とは」「もっと大きな感情が来ると思っていた。でも、静かだった。当たり前のことが、形になった、という感じです」「それが、正しい感覚だと思います」ゴードンが静かに言った。「当たり前のことを積み上げてきたから、当たり前に形になった」「ゴードンさん」「はい」「代表名義をずっと引き受けてくれていた。本当にありがとうございました」「礼はいりません。でも、受け取ります」 それだけだった。 それで十分だった。 次に、各町の現場責任者への報告をした。 マグダ、シェナ、ジルカに、それぞれ手紙を書いた。 謁見の結果。陛下が約束を守ってくれたこと。商会の活動が引き続き認められたこと。今後も続けることができること。 返事は、それぞれ三日以内に来た。 マグダから。 エリナちゃん
ルシェムに帰った翌朝、エリナはいつもより少しだけ遅く起きた。 目が覚めた時、空はすでに明るかった。 珍しいことだった。 いつもは夜明け前に目が覚める。でも今朝は、光が差し込んでから目が開いた。 しばらく、布団の中でそのままいた。 これも珍しいことだった。 起きたら、すぐに動く。それがいつものエリナだった。 でも今朝は、少しだけそのままいた。 窓の外から、ルシェムの朝の音が聞こえた。 市場へ向かう人の足音。遠くで犬が吠える声。風が木の葉を揺らす音。 帰ってきた、と思った。 昨日も思った。でも、今朝も思った。 ここが、自分の場所だ。 台所に行くと、セレーナが先にいた。 「おはよう」「おはようございます」「よく眠れた?」「はい。遅くまで眠っていました」「そう。今日くらいは、いいんじゃない?」「そうかもしれません」 薬草茶を作りながら、エリナは窓の外を見た。 冬の朝の空は、澄んでいた。 「お母さん」「うん」「昨日、ゴードンさんから聞いた話があります」「何?」「学院が、来年から衛生教育を取り入れることを検討しているそうです。石鹸の使い方、薬草薬の知識、傷の手当ての手順を、学院の教育に組み込む話が始まっている」 セレーナが少しだけ手を止めた。 「それって、どういうことになるの」「学院で教えれば、学院の生徒が卒業して各地に行く時に、その知識を持っていく。一人が届けられる場所より、ずっと広い範囲に届く」「あなたが一年でやったことが、もっと広がるということ?」「そうなるかもしれません」「お父さんが聞いたら、何と言うかしら」 エリナは少しだけ考えた。 「『私よりうまくやっている』と言うか、それとも『まだ足りない』と言うか」「この前も同じことを言ったわね」「同じこ
翌朝、エリナは早く起きた。 今日、ルシェムに帰る。 荷物を確認した。報告書の写し。確認書の写し。殿下から預かったアッシュフォード商会の正式な代表変更に関する書状の下書き。そして、セレーナへの手紙。 全部、ある。 朝食を三人で食べた。 フィオナが、珍しく朝から饒舌だった。 「昨夜の話、全部聞かせてもらうって言ったけど」「聞きますか?」「聞く。でも、今は聞かない」「なぜですか?」「あなたの顔を見れば、大体わかるから。今日は、その顔で十分」「どんな顔をしていますか?」 ゴードンが静かに言った。 「昨日フィオナが見たかった顔」 出発前に、フィオナと二人になった。 宿の前の小さな通りで、少しだけ話した。 「フィオナ、これからどうするんですか?」「王都にいる。まだやることがある。規制案はまだ継続審議のままだ。陛下が認めたとはいえ、クロヴェルが諦めたわけじゃない」「そうですね」「でも、今日は違う話をしたい」「どんな話ですか?」「あなたが帰った後のことを、少し考えた。王都に来てからの一年間、私はずっとここで動いていた。でも、いつかルシェムに行ってみたいと思っている」「ルシェムに?」「マリオとルナに、会いたい。あなたが話してくれた人たちに。あなたが動いてきた場所を、見てみたい」「来てください、必ず」「いつ行けるかはわからない。でも、行く」「待っています」 フィオナが少しだけ笑った。 「その言葉、昨夜もレインに言ったでしょう」「言いました」「同じ言葉が、自然に出てくるようになったんだね」フィオナが穏やかに言った。「前のあなたには、なかった言葉だと思う」「そうかもしれません」「いい変化だと思う」 フィオナが手を差し出した。 エリナはその手を両手で握った。
謁見が終わって、王宮を出たのは昼過ぎだった。 アルバ殿下が廊下で待っていた。 「よくやりました、エリナ殿」「ありがとうございます。殿下の準備がなければ、今日はなかった」「王都のデータは、効きましたね」 殿下が少し笑った。「右側の列が、ざわついた」「見えていました」「父上は、満足そうでした。あの顔は、久しぶりに見た。一年前に、『わくわくしている』と言いましたが、今日はそれ以上でしたよ」 エリナは少しだけ、その言葉を受け取った。 「殿下、商会の代表についてお願いがあります」「ゴードンさんから聞きました。昨夜、連絡をいただいた」「はい。正式にエリナ・アッシュフォードの名で商会を持てるよう、陛下にご確認いただけますか?」「すでに父上に話しました。年齢の問題は、特例として認めていただける方向です。正式な書類は、来週中に届きます」「ありがとうございます」「アッシュフォード商会の代表が、アッシュフォードの名前になる。当然のことですから」 王宮の外で、師匠とレインが待っていた。 師匠がエリナに言った。 「一つだけ言っておく」「はい」「今日の発言で、一番良かった部分を教えてもいいか?」「ぜひ」「クロヴェルへの返答だ」 師匠が静かに言った。「感情で返さなかった。でも、感情がないふりもしなかった」 エリナはフィオナが昨日言っていた言葉を思い出した。 「感情がないふりもしなくていい、という言葉を、昨日フィオナからもらいました」「賢い子だ、フィオナ殿は。あの返答には、あなたがいた。数字だけではなかった」「届きましたか?」「届いた。俺には届いた。他の人間にも届いたと思う」 師匠が一歩退いた。 「俺はこれで失礼する。よくやった」「先生、ありがとうございました。一年間、本当に」「礼
謁見の日の朝、エリナは四時間ほど眠った。 眠れると思っていなかったが、眠れた。 目が覚めた時、空はまだ暗かった。でも、もう眠れなかった。 起きて、顔を洗って、薬草茶を作った。 ルナが持たせてくれた葉を使った。 温かい湯呑みを両手で持って、部屋の窓から外を見た。 王都の夜明け前。 ルシェムとは違う空の色だった。でも、夜明け前が静かなのは、どこでも同じだった。 今日、謁見の間に立つ。 もう一度、確認した。 怖い。でも、届けたい。 それだけでいい。 朝食を三人で食べた。 フィオナが、珍しく静かだった。 いつもは何か言う人だが、今朝は食べながらあまり口を開かなかった。 エリナが「どうかしましたか?」と聞くと、フィオナが少し笑った。 「緊張してる」「フィオナが?」「私も人間だから。あなたが緊張するより、私が緊張してる気がする」「なぜですか?」「あなたが上手くいくかどうかを、見ている立場だから。自分が話すより、大事な人が話すのを見ている方が、緊張する」 エリナは少しだけ、その言葉を受け取った。 大事な人が話すのを見ている方が、緊張する。 「フィオナ」「何?」「今日、謁見の間に入れますか?」「入れない。謁見の場に入れるのは、名前がある人間だけ。私には、今は資格がない」「そうでしたか」「廊下で待ってる。終わったら、すぐ出てくるでしょう。その顔を見る」「どんな顔をしていると思いますか?」「わからない。でも、見たい顔をしていると思う」 謁見の前の十分間は、王宮の廊下の一角で過ごした。 フィオナ、ゴードン、エリナの三人。 廊下は石造りで、冷たかった。外の空気が、石を通して伝わってくる。 エリナは上着の内ポケットに手を当てた。 手紙が、ある。 フィオナが言った。 「今日の目標を、一つだけ確